マルチコアがマルチプロセッサーではない理由

結論から言うと一般用語としては「マーケティング的な理由」で区別されたと考えています。

SMPの実現方法の一つとして複数のプロセッサーを一つのチップにまとめたCMP((Chip Multi- Prosessor))があり、x86プロセッサーの性能向上のベースがILPからTLPに移る頃には「いよいよCMPのx86プロセッサが市販される」と思われていました。プロセッサーの扱いという意味ではCMPもmulti-coreもSMPの一種であり、プログラムからのインターフェースは変わりません。アーキテクチャーの分類としてはmulti-coreはCMPの一種になるでしょう。ちなみにSMPに含まれるシステムのアーキテクチャーによる挙動の違いではメモリアーキテクチャーがNUMAかそうでないかの方が大きいと思います。
技術的にはCMPの定義に含まれるmulti-coreが、マーケティング上「core」であることが強調され理由なのですが、問題になったのは既存のソフトウェアのライセンス体系だったのだと思います。サーバー向けのOSその他のソフトウェアはプロセッサー数によって価格が違うライセンス体系をとっているものが多いです。半導体メーカーがプロセッサーの性能向上の手段としてCMPを採用すると、ハードウェア的にはソケットの数がハードウェアとしての複雑さ(=価格)に対応するのでCMP化されることによる価格への影響はあまりないのですが、ユーザーが性能向上を期待して同等規模のハードウェアを購入した時に、ハードウェアの価格はそのままなのに、システム上のプロセッサーの数が増加することによってソフトウェアのライセンス料が増加することになってしまうのです。
ユーザーがソフトウェアのライセンス料の増加を嫌って新しいプロセッサーの購入を躊躇うのでは半導体メーカーは困るので、そこで発明(定義)されたマーケティング用語が「マルチコア」だったのでしょう。それにより増えるのはプロセッサーではなくコアなのでソフトウェアのライセンスは増えないということになりました。

以下補足ですが、ソフトウェアからは複数のソケットを使うmulti-prosessorとCMP、multi-coreは区別されないというのはIntelのCoreDuoやAMDのAthlon64x2などmulti-core CPUのcoreの数がOS上では「n Prosessors」と表示されることからわかると思います*1
また「multi-coreというのものが技術的にCMPとは違うものとして存在する」ということを強く主張したい方もいらっしゃると思いますが、半導体メーカーはその主張に沿うmulti-coreプロセッサーではない、CMP的なプロセッサーもマルチコアと言っているあたり、エンドユーザー向けの「マルチコア」という言葉は技術的ではない理由で使われていると思います。

*1:より仕組みが違うHyperThreadingでも区別されません